褄白狸の話



褄白さん

 「物を失したら、褄白さんにお願いしたら出てくる。とは、このあたり一円に住んどる人は、誰でもそう言うわや。」と古老からきく。

 「褄白」とは、狸が座った時、前足の褄先が白いの「つまじろ」と、言うそうな。褄白狸は八堂山の八堂狸の弟分じゃそうな。と言う古老
 物をうさして、褄白さんにお願いをする時は、アゲを供えて、願いごとが叶えられたら「“七色アラレ”をお供えしよった。」と、もう一人の古老がつけ加える。

 家代々褄白さんを信仰しとる古老は、「お父はんが(夫)召集されたとき、小豆飯を弁当に作っとおくれ、わしがついとってやるから。褄白さんのお告げでのもし、無事に帰還したぞもし。」感慨深く語られる。
 月参りをずっと続けている古老はそばから
 「褄白さんがおいでの時は、パチパチ音をさせるんで、そなゝ時お願いをすると必ず叶えてくれよりました。」と感無量。

 時計がわからんようになって、どうにもならんので
 「俄信心で申し訳ないけんど、わからして下さい。」と、お願いしよりますと、心が落ちついきて、所在を考え出させてもろたが、勿体無いことで
 「褄白さんは、熱も下げてくれよります。」異口同音、ご利益の語り草でいっぱい。

 江戸時代末期の頃、下津池の峠に一人の老婆が住んどって、狸がのりうつった。老婆は焼け死んだ。ところが焼け死んだ筈の狸は実は焼け残って災いをするので、下津池の伊藤忠次郎、山内広吉、伊藤佐兵衛の三軒がおまつりをしとったが、明治の初め頃、部落でお祀りすることになって、氏神さんの境内へ移されたものじゃそうな。

(西条の民話と伝説 より)


狸の集まり

 むかあし、むかしの話じゃ。
 下津池にある褄白神社の褄白狸はの、狸の中の大親分じゃそうな。家来がなんと、36も居っての、全国に散らばって神さんに祀られとるそうな。旧暦の7月6日の晩には、全国から狸さんが集まってきての、一年中の仕事を親分に報告をするんじゃと。そこで、止呂橋の袂へお三方を置いとくと狸は魚になって川を登ってきての、ここでこよりになってお三方に上がりお社へ集まるんじゃと。

 さて、八堂山の狸はの。早朝から八堂山へ登ってくる皆の足をじょうぶにしてやったんぢゃ。
 新居浜の、子女郎狸はの、不景気での、お供えもろくにないし、腹をすかしとるのよ。

 松山の子染狸はの、風呂に入りにくる人のリュウマチをなおしてやっとるんぢゃ。と、口々にいいよったら、親分の褄白狸が、「御所はんや、八之子狸は何も言いよらんが、一体何をしょったか」と問うたので、
 御所はん狸はの、水はええし、米はたーんと取れるし、願いごとやかないけに、ひまでひまでしょうがないんで、はがいなって化かしちゃとるのよ。

 小豆洗りの狸はの、山からおりてくるのは、米やか持っとるのは居らんけに、小豆を盗んで川で洗ろとらいの。
 八之子の狸はの、盗む物やか持っとらんけに、人のあとをばたばた、ばたばた、追いかけとらい。

すると、誰かがの、「親分は、いったい、何をしょりましたかの」「わしか、わしゃのー、全国の人で盗まれたもんや、失さしたもんを、油揚げ2枚で出してやっとらいの」
 なる程、やっぱり親分ぢゃー。と、感心してしもたんじゃ、と。

(西条市生活文化誌 より)


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