1W級 5687miniパラシングル <プッシュプルとの比較> 2022. 6.19
Katou@ 刈谷

<5687パラシングル外観>
5687パラシングル

※右はプッシュプル版
5687シングルとプッツシュプル
左:シングル、右:プッシュプル
真空管部拡大
球部拡大

<経 緯>
   ・以前より「プッシュプルとシングルは音質的にどちらが優れているのかを同じ球で試したい」との思いから
   「ARITO's Audio Lab」の前川様にプッシュプル用を購入・シングル用をモニター希望と打診したところ、ご快諾頂き、2台製作することにしました。
                 プッシュプル版製作記はこちら ⇒  ●5687ミニプッシュプル

<使用部品・回路>
 1.使用部品
   ・基本プッシュプル版と同じです。
使用部品比較
   ・電源トランスは手持ち流用のためB電源電圧が2割ほど異なりますが、音の傾向に大きな差はないと判断しました。

 2.回路
  1)電源部
  ・電源トランスは手元の春日無線「KmB90F」を使います。
   プッシュプルで用いたH12-0429に対ししB巻き線が高圧・低電流です。
   電源トランス比較
  ・B巻き線195Vをブリッジ整流すると240V程度得られると推定、フィルター降圧を20Vとし、B電圧は220Vに設定しました。
   プッシュプル版に対し出力段のロードラインをEb=220V前提で見直すことにします。
  ・B電源はプッシュプル版と同じくMOS−FETフィルターにより定電圧・低インピーダンス化します。
  ・初段差動回路用のプラス・マイナス電源はプッシュプルと同一とします。

  2)出力段
  ・B電源電圧の違いからプッシュプル版に対しロードラインを見直します。
「5687 Ep-Ip特性図」
5687Sロードライン
図は単ユニット・RL=14KΩ時ラインです。

B電源電圧220Vより
Ep
195Vと仮定します。

電源・出力トランスの電流制約から
ユニット当たり12mA
パラで24mAに設定しました。

単ユニットで約0.5W、
パラ@7KΩ負荷で約1.1W得られそうです。

プッシュプル版と同程度の出力なので
これで進めます。
  ・カソード定電流回路等はプッシュプル版と全く同一です。

  3)初段
    ・プッシュプル版と全く同一です。
     2SK2880による差動で逆位相側から信号を取出し出力段に供給します。
      シングルアンプなので歪み的には不利ですが、出力段の差(シングル/プッシュプル)をより明確にする目的で同一回路とします。
  初段差動回路  ソースには温度補償定電流回路を入れドレイン電圧を安定化します。

  4)全回路
   改造後回路図 (クリックにて拡大)
全回路図


<完成状況>
   シングルとプッシュプル  左 側はシングル版、右がプッシュプル版。
   
     増幅部内部状況です。 
   内部の様子  75×170サイズは狭い・・老眼
見えん・・

<完成後のトラブル>
  ・電源を投入し球が働き出すとハム音が出ます。ウーファーだけでなくミッド及びトゥイーターからもノイズが聞こえます。
   オシロで波形を観察すると120Hzの基本波に時間とともに変化する高周波波形が重畳しています。
   ハムノイズ  正弦波は比較用の120Hzオシレータ信号
  ・B電源回路のMOS FETを疑いましたが電圧配分は設計値通り、電圧上昇時間も問題ありません。
  ・電源トランスから出力トランスへの誘導ハムを再確認しましたが、問題になるレベルではありません。
  ・物は試しと思い電源回路のMOS FETを交換してみたところ解決できました。
   これまでのMOS FET故障はヒューズが飛ぶ、電圧配分がおかしい等直ぐに異常と判別できる状況でしたが、今回は時間を要しました。

<調整>
  ・5687のグリッド電圧、カソード電流・バランスを各半固定ボリュームで調整後方形波を入れ不帰還時の波形を観測しまし た。
   写真は約15dB負帰還時の10KHz方形波応答です。 ※負荷8Ω抵抗 負帰還微分補正なし
上:10KHzオシレータ入力  下:L CH出力 NFB=14.6dB
L CH 10K方形波応答
上:10KHzオシレータ入力  下:R CH出力 NFB=15.6dB
R CH 10K方形波応答
  ・プッシュプル同様15dB程度の負帰還では僅かなリンキングに収まり特に補正は不必要と思われます。
   試聴結果もあえて補正するより好ましい音色でしたので、全く調整レスで完成としました。
  ・シングル判でも「ARITO's Audio Lab」OPTの素晴らしさを実感しました、全く使い易い高性能OPTです。 
                         【OPT SE-7K2Wの特性例】
    SE-7K2W特性例

<プッシュプルとの比較試聴>
  ・各種CDを3種のスピーカー(JBL S3100、FOSTEEX FF165WK、MarKAudio OM-MF519)で切換え試聴しました。
試聴CDの一部
試聴CDの例
試聴環境
試聴スピーカー

  ・JBL S3100(38cm 2way)
    シングル:低域は十分伸びるが輪郭がなく船舶の汽笛の様なイメージ。 高域は賑やかで明るく躍動感を感じる。
   プッシュプル:低域はシングルより量感が少ないが輪郭があり丸く弾む。 高域もシングルより大人しく優等生的。

  ・FOSTEX FF165WK(16cmフルレンジ 二斗樽)
    シングル:低域は割と輪郭がありコントラバスがきちんと弾む。 高域はJBLより更に賑やかで明るい。
   プッシュプル:低域の量感はシングルと同程度だが輪郭はより明確。 高域はJBLと同様大人しく優等生的。

  ・MarKAudio OM-MF519(8cmフルレンジ ダブルバスレフ)
    シングル:低域は超三の様なドンシャリ感に溢れる。 高域もシャリシャリで賑やかかつ明るいがアッタク音がきつい。
   プッシュプル:低域の量感はシングル以上で輪郭は更に明確。 高域は爽やかでアッタク音がきつくなることもなし。

   ・昨年11月28日に開催した「中部持寄り試聴会」での比較試聴では9:3でシングル優勢でした。
   今回改めて十分聞き込んだ結論ですが、「自分はプッシュプルの方が好み」となりました。
   一聴では確かにシングルの方が低域を除く音域全体の輪郭がより明確で耳当たりもよいですが、
   十分聞き込んでいくと特に高域で粗さを感じます。 全域の音質面で私はプッシュプルの方が合うと思いました。
   ですが、どちらかが明らかに良いと言える差ではないと分かりました。

  ・無帰還シングルは特性上狭帯域高歪ですが、聴感では帯域・歪とも全く気になりません。
   今後は暫く様々な球でシングルを作ってみようと思います。

<総合特性>
本機パラシングルプッシュプル
周波数@0.5W
シングル周波数@0.5W
無帰還ではやや見劣りしますが、負帰還時は十分な性能です。
【周波数@0.5W】
プッシュプル周波数@0.5W
やはり低域高域共にプッシュプルの方が優れます。
【歪 率 R ch】
Rch 歪率特性
プッシュプルより歪みが多いですが聴感は歪を感じません。
【歪 率 R ch】
R ch 歪率特性
シングルよりNFB量は少ないですがより低歪です。
入出力特性入出力特性
  測定機器 
   ・オシレータ:TRIO AG−203
    ・ミリバル:TRIO VT−165
    ・歪率計:リーダー LDM−170
    ・オシロスコープ:菊水 DSS5040




                                                              
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