21.沿面放電を観るトナー法

 絶縁物表面に放電が進展する状態を沿面放電と呼びます。放電のエネルギーが小さいときには絶縁物表面の放電の痕跡はほとんどありません。沿面放電の現象を何回か経験すると分かってくるのは、光の反射に変化があることです。放電が進展した部分とそうでない部分では光の反射の具合が異なり放電の進展具合が分かります。この放電の進展具合を第3者に伝えようとして写真を撮影してもほとんどの場合上手く写りません。

 どうすれば上手く伝えられることができるかということで昔から使われている方法にトナー方があります。コピーに使用する黒い粉を放電した絶縁物の表面に振りかけ、その後風で飛ばす(通常は口から呼吸の空気を噴き出して飛ばす場合が多いですが)と放電した痕跡の場所は帯電しているためこの部分にトナーが付着して沿面放電の形状が分かるというものです。

 黒いトナーだと絶縁物表面に残る帯電が正か負か分からないので、この違いを明確化するために用いられるのが炭素の粉と硫黄の粉を混ぜ合わせた後十分振って帯電させて使用するものです。帯電列において炭素は正に硫黄は負に帯電します。この混合した粉を沿面放電を発生した絶縁物の表面に振りかけると、正に帯電した炭素の粉は絶縁物表面の負に帯電したところに付着します。負に帯電した硫黄は絶縁物表面の正に帯電したところに付着します。この結果、絶縁物表面で負に帯電したところは黒(炭素の色)に正に帯電したところは黄色(硫黄の色)になるので正負が明確になります。

 カラーコピーが出始めた頃はコピーのトナーに黒は炭素、黄色は硫黄を使っていたと思われ、上記のように正に帯電したところは黒、負に帯電したところは黄色になって、わざわざ炭素と硫黄を混ぜなくてもカラーコピーのトナーで代用できました。しかし、カラーコピーが普及して10年位経った後にカラーコピーのトナーをこの沿面放電の正負を確認するために使用したところ、明らかに負に帯電するべきところが黄色、正に帯電するべきところが黒になりました。一時はどうしたことかと驚きましたが、その頃はカラーコピーのトナーも進化して粉の紛体内部に別の材料を入れるようになっていて必ずしも炭素と硫黄を使用していませんでした。このため基礎に戻って炭素と硫黄を混ぜた粉を使用することで事なきを得ました。

 昔の材料と今の材料は異なる可能性が高いことは十分考えておかないと痛い目にあう事例の1つです。

2025年07月20日