コラム

所長のコラムです。

コラム一覧

16.米騒動の「失敗の本質」

 「失敗の本質」は1991年に初版が出版された書籍です。この本の中で日本軍がいかなる失敗をして敗戦に至ったかを詳細に分析しています。その中で、日本人は所属する組織内の和を乱さないようにするため、異論が出ないように予め根回しをする傾向にあることが説明されています。このため不都合が発生した時に決断すべき時に決断する人が決断せずに、まず関係者の根回しから始めるので実行するまでに時間がかかります。また、少しの部隊を派遣すれば大丈夫と根拠の無い楽観主義で進めることもあります。

 この結果、各所で軍隊を進めるにあたり、判断が遅いだけでなく小出しにして全滅させる失敗を重ねました。さらに、指揮系統に関係が無く、知識も無い人物が地位が上であることを理由に指揮をしてを全滅させることも起こりました。八甲田の氷雪中の進軍の訓練での大規模な遭難も同じ理由で発生しています。

 今般発生している米価格の高騰ですが、昨年2024年6月から米が足りないと分かっていたのに、新米が出回れば解消すると根拠ない楽観主義で対策を取りませんでした。2024年の秋に新米が出回っても相変わらず米が足り無い状況が続き、2025年2月になってやっと備蓄米を市場に出す判断をしましたが、その量が足りず米の高騰が続いています。さらに、2025年6月から備蓄米を少しづつ小出しにして市場に投入しようとしています。少しづつ備蓄米を全部市場に出したとしてもその効果は大変疑問です。

 これらの対応は日本軍が戦争に負けた行動をそのまま行っているようにしか見えません。2024年6月の段階で備蓄米を市場に投入すれば治まっていた可能性が高いのに、一旦価格が高くなると高い価格で仕入れた米は安く売れないのは当然です。誰に遠慮したのでしょうか。今回の一件で儲けた輩でしょうか。

 今後、的確で早い決断をして、米農家が儲かるようになって若者が就きたい仕事になるとともに、消費者として納得のいく価格水準で早く安定するのを願うばかりです。

2025年05月02日

15.薄いポリマーフィルムには穴がある

「14.ポリマーフィルムは簡単にははがれない」でフィルム同士を簡単にはがすためにシリカ粒子を入れると書きました。するとフィルムを薄くするとシリカが抜け落ちて穴ができる心配があります。
実際に、12 μm(0.012 mm)厚さのフィルムには結構な数の穴が開いています。25 μm(0.025 mm)の厚さのフィルムでも数は非常に少ないものの穴が存在します。

  広い範囲でフィルムを用いて絶縁する必要にあるコンデンサでは、従来では25マイクロメートルのフィルムを2枚用いることで穴が重なる確率をほとんど零にして構成していました。そこで、穴があったら敢えてその場所で絶縁破壊を発生させ、穴近くの電極を溶かして飛散させることでコンデンサ全体として高い絶縁特性を確保する方法にすることで、コンデンサの小型化をしています。

 近いうちに東南海地震が来るかも知れないとことあるごとに言われるようになりました。地震が発生すると食料、水よりもトイレが非常に重要と言われています。下水道が破損して流れなくなる可能性が高いので、ビニール袋に用をたした後に吸水ポリマーを振りかけて固めビニール袋を閉じてさらに大きなビニール袋に入れることで保管するものが一般的です。

 この場合、使用するビニール袋が薄いと小さな穴が開いているので、この穴から匂いが漏れることになります。このため保管するための袋は極力厚い方が良いのですが、この頃大きな袋は厚くても20 μm(0.02 mm)のものしか目にしなくなっています。20 μm(0.02 mm)のビニール袋1枚で匂う場合には2枚重ねて使用することで匂いは少なくなることが期待できます。

2025年04月24日

14.ポリマーフィルムは簡単に剥がれない

 歳を重ねると指の油脂と湿り気が減り、ポリエチレンの袋の口を開こうとしてもなかなか開かなくなります。しかし、工夫していないポリエチレンの袋は指に油脂と湿り気があっても容易に開きません。

 これには分子同士が引っ張り合うファンデルワース力が影響しています。「12.ポリマーフィルムの作り方」でも書きましたがポリエチレンが同じ方向に向いていると結晶化します。この結晶化に影響する力がファンデスワース力です。付着したフィルムは、面全体でファンデスワース力で引き合っているので通常では引き離すのは非常に大きな力が必要になり、場合によってはポリエチレンフィルムが破れてしまうほどの力が必要になります。これでは困ります。

  この問題を解決するために、ポリエチレンのフィルム同士で大きなファンデスワース力が働かないようにすることが必要になります。それにはフィルムがぴったり張り付かないようにポリエチレンにシリカの粒をいれることです。そのことによりシリカの粒がフィルムの表面から突き出し、ぴったり張り付くのを邪魔をして非常に小さなファンデスワース力しか働かないようにします。こうすることにより小さな力でポリエチレ袋を開くことが可能になります。

 このようにすることでフィルム表面で電荷交換をして引き離す際に沿面放電を発生させない効果もあります。

 

2025年04月16日

13.トランプ関税はB.C.1177を引き起こす

「B.C.1177」とは、著者はエリック・H・クライン氏、翻訳は安原和見氏の2018年に話題になった書籍です。

 ヒッタイト、ミタンニ、エジプト等の地中海に面する国々は争いながらも交易をしていろいろなものを手に入れて栄えていました。しかし、紀元前、1177年を境にこれらの交易がおこなわれなくなり地中海の文明が衰退してしまった、というのです。それぞれの国が自国の特産品を売り、他の国の特産品を買うというグローバル化が進んでいました。このため交易が滞ることでいままでできていた生活ができなくなり元の状態にもどるまで300年以上かかる非常に大きな転換点です。しかし、どうして急に交易がなくなってしまったのかの原因は不明とのことです。

 現在、米国のトランプ氏が高い税率の相互関税を発動することになっています。これにより貿易が減り、さらに他国が報復関税を発動することで貿易自体が滞ってしまうと、紀元前1177年と同じことが起こる可能性があります。紀元前1177年も関税を課そうとして交易が止まってしまったのかもしれません。さすがに300年では無いにしろ元に戻るまで30年位はかかりそうです。

 トランプ氏の支持者層で中核をなす白人の中流の労働者層は、株をもとに老後の年金を得ているはずです。景気の先行きの不安から株価の低迷が続けば株の運用益で得ていた年金が吹っ飛んでしまいます。すると白人の中流の労働者層は、こんなはずでは無かったと一転して支持しなくなるでしょう。根拠の無い大幅関税増額により世界の景気を低迷させ、米国民の年金を喪失させることでトランプ氏はアメリカを偉大にしたのではなく、老後の年金を台無しにすると共に国益を損なった大統領として名前を残すことになると思われます。

2025年04月16日

12.ポリマーフィルムの作り方

 普段の買い物でお世話になっているポリ袋ですが、数年前から有料化されて自前の買い物袋を用意している方も多いとは思います。しかし、便利なのでポリ袋を何かと使用しているのではないでしょうか。

 買い物で使用される袋は、通常はポリエチレンが多いはずです。ポリエチレンの内でもほとんど高密度ポリエチレン(HDPE)が使用されます。一方、魚や肉のパッケージが万一破損しても内部の液体が他のものに付着しないように、柔らかいポリ袋に入れる場合が多いですが、これもポリエチレンです。こちらは密度が小さい低密度ポリエチレンです。

 高密度ポリエチレンは、ポリエチレンの分子が一方向に伸びて横方向に突き出た枝が少ないため、他のポリエチレン分子と同じ方向に向いて並列に並んだ部分が多く、そのためぴったりとくっ付いて結晶化した体積が多くなり密度が高く、やや硬い特性を持っています。対して低密度ポリエチレンは、ポリエチレンの分子に横方向に伸びる枝が多いため、他のポリエチレン分子と並ぶことがほとんどできず結晶化した部分が非常に少ないため柔らかく伸びやすい性質を持っています。

 さて本題ですが、これらのポリエチレンのフイルムはどの様に作られているのでしょうか。
これは高温にして溶かしたポリエチレンを丸いノズルから噴射させます。この丸いノズルの中央に空気を噴射するノズルを忍ばせているのがミソです。溶けたポリエチレンの中に空気が大量に入ってくるので、ポリエチレンは延ばされて円筒状に膨らみます。しかも、ポリエチレンは円周方向に延ばされるだけでなく巻き取られるため進行方向にも延ばされます。このようにして袋状のフィルムが作られます。このように縦方向と横方向に延ばしながら作るためインフレーション法と呼ばれます。

 高分子は引っ張られることでそちらに高分子が並びやすく結晶化しやすいので丈夫になります。この引っ張られる方向が縦横の2方向の場合2軸延伸フィルムと呼ばれます。

2025年04月03日
» 続きを読む