スクリアービン入門講座 by K.Hasida その2:

初期作品(2)

 今回は作品20から29の範囲で、紹介します。
この辺りから、自分でも弾いてみたいと思っている曲が出てきます。

ピアノ協奏曲作品20

 この曲は前回紹介すべき曲でした。ピアノソナタ第1番作品6、12の練習曲
作品8、24の前奏曲作品11他、以上にショパンの協奏曲を思いださせます、
特に第1楽章。愛すべき作品で人気もあるが、大傑作と思っている人も余り
いなさそう、という位置付けもショパンの協奏曲と同じように思えます。
ショパンの協奏曲3番くらいのつもりでも聴いていただけるのではないかとも
思いますが、後期につながる曲とは思えませんから、スクリアービン入門の
意味がないかもしれません。

 ただし、この曲をスクリアービン自身が終生演奏し続けたらしいのです(出典
辿れず)。スクリアービンの作品に対する作曲者自身の好みと私の好みとは、
後期作品になるとかなりのずれを生じますから、私が驚いても仕方ないのです
が、後期のスクリアービンとはまるで異なった、ほぼショパンの協奏曲そのもの
の世界をスクリアービンが愛し続けたとは信じ難いものがあります。

 私はアシュケナージ/マゼールしかもっておらず、これをさほど悪い演奏とは
思っていません。(但しピアノソナタに関しては後でアシュケナージを吊るし
上げることになります。この曲でも推薦CDという点では無責任で済みません)

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ピアノソナタ第3番作品23

 ”心理状態”とやらいうタイトルのついた緩急緩急の4楽章ソナタ。ソナタ
第1番を数に入れていない私にとっては、スクリアービンの唯一の本格的
多楽章ソナタになります。

 この曲も、冒頭楽章はややもすると重ったるくなります。どうもこの頃までの
スクリアービンは”ソナタ”に対して構えすぎのようです。ただしこれも演奏次第。
テンポ指定は69、でこれを守ったほうがよい。アシュケナージのこの曲の録音
がLPで出ていた時、”60を切るテンポでじっくり歌い上げていて素晴らしい。”
みたいな、おべんちゃら解説になってましたが、これが最悪です。(CDの全集
は余分な能書きが少なくてよい。アシュケナージさんの困ったところをもう1つ
指摘すると、一般にこの人のだけ聴くと、いい演奏のように聞こえてしまって、
気にいらないのは曲のせい、という気になるところです。) 他の演奏で聴いて
いくうちに、どうもアシュケナージさんだけがおかしい、と考えるに至りました。
ちゃんとした演奏なら微妙な表情の移ろいが素敵な楽章です−という言い方
なら全曲を通して当てはまりますが。

 第2楽章はスケルツァンドな3部形式。ホロビッツはABA’をABAにして
ますが、私もまねしそう。こういう音楽を切り詰めて演奏したくない。

 第3楽章のアンダンテも最高に美しい。主題を作曲者が”星が歌う”と呼んだ
そうですが、共感できます(これが後期になると、何を言ってるのか分からなく
なる)。この楽章の困ったところを敢えて挙げれば、アタカで第4楽章に続いて
しまって、単独では演奏できないところでしょうか。

 第4楽章はポリリズムがかなりやっかいなプレスト、ちゃんと演奏すれば
デリカシーにあふれたフィナーレになるのですが.. 先の投稿で、グールドを
”うまい奴がうまくなさそうに弾いていて実はうまい”と評しましたが、大詰
近くの転調を重ねるところの見事さは耳に残っています。

 現在手元には、アシュケナージ、ジューコフ、ホロビッツ、ソフロニツキ、
シドン、ギレリス、が残っています。アシュケナージの第1楽章以外はそう
悪いのはない、というか、比較的演奏を選ばない曲だと思います(惚れ方が
足りないだけかもしれない)。ジューコフとソフロニツキは録音がひどいし、
ギレリスのは第4番でもう一度登場してもらう怪盤ですから、まずホロビッツ
(BVCC−5122)、ついでシドンの全集とグールドという序列にします。
(しつこいですが、ホロビッツのRCA盤は、1枚を通して実に素晴らしい)

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交響曲第1番作品26”芸術賛歌”

 6楽章あって小1時間かかる大曲で、最終楽章にはメゾソプラノとテノール
のソロも加わります。このフィナーレがなんとも間抜けだ、という記憶が強く、
ついに聴き直す気力が生まれませんでした。最初ムーティのを買って、
フェドセーエフ(+2、3番)、インバル(全集)、スヴェトラーノフ(新全集)
と入手し、ムーティとインバルは既に手放しておりますが、さて、ムーティ
以外聴いたことがあるのかな。ムーティがスクリアービンの録音をまず
この曲から打って出ようというくらいですから、愛好されている人もたくさん
いらっしゃることと思いますが、私にはコメント不能の曲です。

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幻想曲作品28

 ソナタ形式になる大作(といっても10分くらい)で、5番のソナタ以降の単一
楽章のソナタと実質同じだけのものがあります。このソナタ形式はきっちり
した再現部がみられる、ベートーベンばりのもので、後年の徹底したソナタ
形式志向はこのころから既に顕著だ、と言えそうです。スクリアービンの
形式感は誰よりもベートーベンのそれに近く、ショパンとは非常に遠い、
と思っております。

 やや重めの第1主題もこの曲までくると気になりません(結末直前のドドドドン
だけはやっぱり重すぎるが)。第2主題は甘く、しかもラフマニノフのように
感傷的になりすぎることない、印象的なもの。これがコーダでテンポを落として
短調で現れるところはたまらない! 基調となるテンポはモデラートですが、
再現部では提示部より大幅に音が増えるので、弾くのは大変です。

 学生時代に仲間内の演奏を3通り聴いていて、好きな曲だったのですが、
プロの演奏録音の入手は遅れました。シドンの全集をCDで買ったのが最初で
最後なので比較はできませんが、いい演奏だと思います。シドンの録音
(輸入盤:DG431747−2、国内盤も出ているようです)は、あでやかだが
透明感のない、油絵の具のような音と、アシュケナージより指の回りの悪い
ところを感じさせます、ルディもホロビッツも出していない曲を聴くには決して
悪くないと思います。
#ちなみに、私が最初に入手したCDの全集は、緑の服を着た確かDから
#始まる名の太ったおばちゃんの写っていた輸入盤で、レーベルからして
#忘れましたが、ベーゼンドルファーを使ったとか書いてあって、その演奏
#のあまりのひどさにベーゼンドルファーごと嫌になりました。これ買って
#スクリアービンをばかにしている人、考え直して下さい。

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交響曲第2番作品29

 私にとってはこの曲からが観賞対象となる交響曲です。ところで、日本語では
この曲に時として”悪魔的な詩”というタイトルがついていますが、英文解説
ではそれに対応するものを見たことが無いように記憶しております。この辺り
の事情について詳しい方は教えて下さい。

 全5楽章、実にきれいな響きな各楽章間のコントラストにも不足すること
無く、というと、えらく褒めているようですが、それらがみんなありきたりに
聞こえて、あまりおもしろくない。決して短い曲ではない(8分−8分−
15分−5分−8分)のですが、楽章で見ても全体で見ても箱庭のように
こじんまりとして、第3交響曲(こいつのタイトルは確かに Divine Poem だ)
の小型版みたいに聞こえます。この曲に一番足りないのはデモーニッシュな
迫力であり、そうするとあのタイトルが皮肉を通り越して間抜けに聞こえます。

 ヤルヴィのCDを結構喜んで聴いていたのですが、どうやらスヴェトラーノフの
新全集入手を機に処分してしまったようです(確かヤルヴィだったと思うんだ)。
フェドセーエフでは2枚にまたがるので聴く気がしません、というわけで
スヴェトラーノフで聴いてますが、ヤルヴィ?とさして変らないと思います。

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この範囲で好きな曲は、読んでいただければ一目瞭然でしょうが、第3ソナタと
幻想曲です。その他、マズルカもスクリアービン節が好きな私としては、
ショパン節のきつい本家のより好きですね。

 

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