奇跡の復活

 

 話が少々ややこしくなってしまいましたが、クリオの今後をあれこと悩み考えている間に他の2台のトラブル続きがきっかけで、当初の予定外にパンダが新旧入れ替わってしまったわけです。それと平行して、実はクリオPh3どうしの換装への道にまたまた新たな展開が・・・! 

 クルマを含む趣味関連でいつも親しくさせていただいている我が家の師匠、Yさんからこんな打診があったのです。それは、Yさんのお兄さんの1型Ph1(RN)のクリオのトランスミッションとエンジンを使って換装することでした。そのクリオはRNと言ってもマニュアルです。これはもう願ってもないこと!私のクリオの一時しのぎの延命措置として考えていたATどうしの交換でしたが、それがMTとなれば、ちゃんと手入れさえしていればもっともっと長く乗ることができます。1型クリオのMT車の乗り味が素晴らしいのは、うちのエクスプレス(エクスPh3の場合は、サンクよりもクリオの機関を多用しているので)はもちろん、以前に試乗させていただいたウィリアムズや16Vで体験済み。グレードは全然違ってもだいたいの見当はつきます。さらに主人は実際にそのお兄さんのクリオを試乗させていただいたことがあるので、その良さは折り紙付きです。でも・・・我が家と同様、Yさんのお兄さんもPh1をとても気に入っていらっしゃって、新車からずっと長年乗られているわけですから、今となってはとても稀少な初期クリオを手放すことになります。いえいえ手放すどころか、その存在自体がなくなってしまうわけです。そのお話をすぐにでもお受けしたい気持ちと、お兄さんに対して申し訳ない気持ちが複雑に混じりあっていました。お兄さんが体調を崩されたことで当分のあいだクルマに乗れなくなったというご事情があったのですが、それにしても・・・。

 そんなとき、今回ポンと口火を切ったのは、サンクGLやエクスプレスでYさんを通じてお世話になっていたメカニックさん。Yさんのお話によると、腕の良いそのメカニックさんから換装のことを提案してくださったのだそう。同じ1型のRNといっても、ATからMT、そしてPh1とPh3の隔たりによって部品がかなり違うでしょうし、作業が複雑で難しいことは素人の私達でも想像がつきます。あまりお金にならない面倒なことをご自分から引き受けてくださるなんて・・・!当然ながら、よその家のクルマのことも自分のことのように考えてくださるYさんの交渉もあったのでしょう。「本当に?本当にいいのですか?」と半ばオロオロしている私達。そんな私達にYさんは「兄の気が変わらないうちに決めてしまいましょう!」と後押しをしてくださいました。

 現代車はどうかわかりませんが、ちょっと古い輸入車のATが鬼門なのは周知の事実であり、自分自身の経験でもあります。そんなわけでずっと以前からクルマのお仲間さんたちには、「ミッションを載せ替えててでもクリオに乗り続けたい!」と、半ば夢の話と思いながらも言っていた私。それぐらい気に入っていたクルマです。それなのに、いざATが最悪な調子になってしまったらくじけそうになり、「みんなに嘘をついちゃったことになるんだな。クリオとはとうとうお別れなのか・・・」と気持ちが沈んでいました。そこへ救世主のように現れたのがまず同じPh3、そしてその後に湧いたPh1のお話。「嘘をつかないで済むんだ!考えられるだけ考え、やるだけのことはやったと言えるよね!」と主人と喜び合いました。換装してちゃんと適合してくれるかは結果が出てみないとわかりませんが、たとえダメであっても納得がいく。半年以上の間、右往左往していたわがクリオの道筋がこんなに嬉しい方向へ・・・!もうすべての出会いに感謝したい気持ちでいっぱいでした。

 末期症状だったクリオを頑張って運んでくださったYさん(とてもご苦労をおかけしてしまいました)のおかげでいよいよ入庫。換装の時を迎えました。担当のメカニックさんは立て込んでいた他の修理のお仕事をまずは全部済ませられた後、一筋縄ではいかない難しい作業に集中してくださいました。ミッションとエンジンの載せ替えは文字通りの大手術。Yさんのネットワーク力も含め、部品の調達やそれらを適合させる為の工夫の数々、また電気系統のプロのかたにも手助けいただき、いろいろな方々の手によって甦っていく我がクリオPh3なのでした。
 
 そして2014年7月
ついに、「お待たせしました」のYさんの言葉に胸が高鳴りました!復活までにはもっと長くかかってしまうだろうと覚悟していたのが、想像以上に早く仕上げていただき、どう感謝の気持ちを表したらよいのか・・・。完成したクリオのハンドルをいざ自分で握るという場面では嬉しさと緊張で胸がいっぱい。運転席の右側にはこれまで私のクリオには存在していなかったPh1のシフトノブ。クリオと年代が同じと思われる我が家のエクスプレスでその光景は見慣れているものの、まるでずっとそこにあったかのように違和感なく収まっています。恐る恐る半クラにしてアクセルを踏み込みながら順にシフトを入れていく動作をドキドキしながら進めていきました。

 安心できる重心低めの乗り味はそのままに、徐々にアクセルを踏み込んでいくごとに感じる、滑らかな動きと軽くスピードアップしていく自然な感覚、そしてルノーならではの、耳に心地よい落ち着いたエンジン音・・・その素晴らしさはあの辛かった末期症状がウソのよう。元気だった頃のATよりもさらに生き生きとしたクリオの動きに嬉しさがこみ上げ、何と言葉で表現していいのかわからないぐらいの感動でした。MTの1型クリオオーナーさんで長く乗っていらっしゃったかたが多いことを改めて納得させられました。
 
 高級車でもスポーツカーでもない、たかが小さなごく一般の乗用車ひとつのことですが、私にとっては大きな大きな存在。Yさんやお兄さんはもとより、クルマ繋がりでこれまで出会った皆さんのおかげで夢が叶いました。載せ替えてくださったメカニックさんも、ずっとお世話になってきたショップのかたも、同型クリオのオーナーさんも、そして見守ってくださっているお仲間さんたち全ての方々も、本当に本当にありがとうございます!!そのひとつひとつの出会いがなければ、このタイミングで、こんなチャンスに巡り会えることもなかったでしょう。どれかたったひとつの事柄でも欠けてしまっていたら、実現しなかったことだとしみじみ感じました。 そしてまた、最初にドナーとなるはずだったPh3は、別のお客さんの目にとまり、とても気に入って乗っていらっしゃるということを後日うかがったのです。新しいオーナーさんと巡り会えたもうひとつのグリーンのPh3。良かったーーーー!!!!

 その後・・・残念なことに、Yさんのお兄さんはクリオを復活させていただいてから2年たたないうちに、天国に旅立って行かれました。普段から誰にでも優しく気さくなお人柄で、私のクリオの復活をご覧いただいたときは我が事のようにとても喜んでくださっていました。いろいろな意味で唯一無二の私のクリオは、Yさんのお兄さんを偲ぶ大切な形見ともなったのです。お兄さんのご冥福と感謝の気持ちを胸に抱きながら、ますます大好きになったこのクルマをできる限り長く永く乗り続けていきたいと思います。

わたしたち夫婦の心に今も残る、黒のクリオ(ルーテシア)Ph1 RN