Sweet Snow Story.信之&月乃&綾奈〜家族編〜
Sweet4.信之&月乃&綾奈〜家族編T〜“Awaking”【後編〜Realize〜】
翌日、信之たち一家と日奈は、一族の長であるつららを訪ねて雪女の里へ来ていた。
朝になって目覚めた綾奈はいつもと変わらず、自分が昨夜行った事は覚えていないようであった。
もっとも、「昨日の夜、冷気放射したの覚えてる?」などと聞けるはずもないので、
それとなく様子をうかがっただけであるが。
当の綾奈は、みんなでお出かけするのが楽しいらしく、リュックをしょって飛び跳ねている。
「ねぇ、パパ。今日はお仕事は?」
「ははは、今日はお休みをもらったんだ」
今朝になって上司に休みの申請をする時は、なんと言って言い訳しようかと頭を抱えていたが、
特に急ぎの仕事も無く、また心の広い(笑)上司であったため、あっさりと休暇の許可が下りていた。
「綾奈ちゃんとママとお姉ちゃんがお出かけするのに、パパだけ仲間外れじゃさみしいからね」
「うん!パパも一緒に行こっ」
こうして−とりあえず雰囲気的にはピクニックに行くような感じで−信之たちは里へ向けて出発した。
「あれ、日奈じゃない?それにお姉ちゃんたちも。どうしたの?」
里の入り口にいた星香は、姉一家+おまけがやってくるのを見て声をかけた。
「あーっ、星香お姉ちゃんだ!」
とてとてと星香に走り寄る綾奈を見て、星香はしゃがみこんで、
「綾奈ちゃん、今日も元気いっぱいだねー。えらいえらい」
と、姪の頭を撫でた。
母親の妹である星香が“お姉ちゃん”と呼ばれる事に疑問を持ってはいけない・・・という掟は里にはないが、
信之もとりあえず命が惜しいので、あえてつっこまないようにしていた。
「ああ、星香。つらら様に会いたいんだけど、屋敷にいらっしゃるのか?」
「んー、多分いると思うけど。何かあったの?」
綾奈が一緒にいるので、今ここで詳しい話はできない。
「後でゆっくり話すから、ちょっと待っててくれ。それじゃ」
「後でって・・・ま、いいわ。それじゃ、また後でね、綾奈ちゃん」
「またねー、星香お姉ちゃん」
非常に興味はあったが、後ろで姉が必死に目で「お願い!」と訴えているのが分かったので、
星香はとりあえず我慢してその場は見送ることにした。
信之が一人で長の屋敷を訪ねると、つららに仕えている雪ん子が玄関前の雪かきをしていた。
いきなり綾奈本人の前で相談するわけにもいかないので、月乃と綾奈(+日奈)は月乃の実家で待っている。
「信之様、お久しぶりです」
この雪ん子とは日奈と一緒に里を出る前から面識がある。
何かと気が付く少女で、つららも重宝して長く自分の側に置いていた。
「つらら様はいらっしゃるかい?折り入って相談があるんだけど」
「はい。奥でお待ちしています。信之様がいらしたらお通しするように、と」
「俺が来たら・・・?」
来るのが分かっていたかのようなその言葉に、まぁ、つらら様ならそういうこともあるか、と納得する。
「つらら様、信之様がいらっしゃいました」
「ご苦労さま。下がっていて良いわよ」
当年とって○百歳であるにもかかわらず、相変わらず絶世の美女(年齢不詳)である。
来ている服は月乃や日奈が妖怪の姿の時に身につけているのと同じ白襦袢なのだが、
つららが着ていると、まるで十二単を纏っているかのように優雅に見えてしまう。
「つらら様、実は・・・」
「綾奈のことですね」
信之が言いかけると、つららはそれを遮るように言った。
やっぱり分かっていたか、と思ったが、それならそれで話は早いので好都合である。
「昨夜、大きな力を感じました。月乃と似て非なる力・・・すなわち彼女の娘である綾奈の力ですね」
「はい、眠ったまま周囲の気温を下げる力を発揮しました」
月乃がもっとも得意とする力、気温操作の力を綾奈も受け継いだということだろう。
「それで、これからのことについて、つらら様に相談に来たのです」
「相談は良いですが、その前に貴方はどう考えているのですか?」
つららに見つめられ、信之は心の底まで見透かされているように感じ、落ち着かない気分になった。
「私は娘に雪女のこと、この世に存在する妖怪と言う存在のことをしっかりと学んで、
その上で人間の世界で生きていけるようになってもらいたいと考えています」
子供の時には子供の時にしか体験できないことが、人間の世界には数多く存在する。
時間が凍りついたようにゆるやかな変化しか現れない雪女の里では、決して経験できないことだ。
成長してから人間の中にまぎれて生きていくには、子供の頃の経験をしておいた方が良い。
これは信之だけでなく、月乃も同じ意見であった。
「貴方の考えは分かりました。・・・心配しないで良いわよ、私も同じ考えです」
「つらら様・・・」
つららは長としての気品ある顔から、母親のような優しい顔になって微笑んだ。
「私もこの里の長であると同時に、綾奈の曾祖母でもあるのよ。
かわいい曾孫のために、できることは惜しまないわ」
「ありがとうございます」
信之は頭を下げて、心からつららに感謝した。
「綾奈、貴女に色々と教えたいことがあります。しっかり聞いて覚えてくださいね」
「うん、分かったよ」
信之は綾奈を連れてつららの前に戻ってきていた。当然、月乃と日奈、それに何故か星香まで一緒であった。
綾奈をつららの前に座らせると、信之は月乃の隣に並んで腰をおろした。
つららは綾奈に優しい目を向けると、穏やかな声で話し始めた。
「まず、貴女には特別な力があります。普通の人間には無い力です」
「とくべつな、ちから?」
綾奈は首をかしげた。つららの言う特別な力というのがどんなものか、よく分からないようだ。
「そう、貴女には人間と違う、私たちと同じ雪女としての力が宿っているのよ」
「知ってるよー」
「そう、知っているのなら話は早い・・・って、ええっ?!」
まさかそういう返答がくるとは予想していなかった一同は、びっくりして綾奈を見つめる。
「だって、前にママと雪姫お姉ちゃんがお話してたもん」
「月乃さん〜」
雪姫はとりあえずこの場にはいないので、全員の目が月乃に集中する
「で、でも、わたし、綾奈ちゃんの前でそんな話したことない・・・けど・・・」
ちょっと自信が無くなったのか、声が少し小さくなる。
「・・・しまった、そうか・・・」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
信之のつぶやきに日奈が反応する。
「確かに月乃さんは綾奈の前では話をしていなかったんだろう。
でも、綾奈の耳の良さは、俺たちの想像以上に良かったのかもしれない」
そういえば、日奈も月乃から鼻と耳がいい、という話を聞いたことを思い出した。
「ま、隠し事はできない、ってことだねー」
星香がお気楽そうに言った。
「それでは綾奈、雪女の力というものがどんなものかは知っていますか?」
気を取り直して、つららが綾奈に尋ねた。
自分が雪女の力を持っているとは知っていても、使い方までは知らないだろうと一同は考えていたのだが、
その予想は綾奈の次の言葉にあっさり裏切られることになった。
「えーっと・・・こんなのでしょ?」
そう言った瞬間、綾奈を中心に周囲の気温が一気に低くなったのを信之たちは感じた。
「綾奈ちゃん、この力は・・・?!」
「えーっとね、昨日ね、きれいなお姉さんに夢の中で教えてもらったの」
月乃の問いに、綾奈は笑いながら答えた。
「つらら様、これは一体・・・?」
綾奈が自分の意思で、冷却の妖術をあっさりと使いこなしている。
ここまで立て続けに予想を裏切られるとは、その場の誰もが考えていなかった。
「おそらく、綾奈自身の雪女の力が、夢という形で彼女に力の覚醒を促したのですね」
「綾奈自身・・・」
すると、綾奈が夢の中で出会ったきれいなお姉さんというのは、綾奈自身の雪女としての姿なのであろう。
「他にも何か教えてもらったの、綾奈ちゃん?」
「んー・・・忘れちゃった」
日奈の質問に、綾奈は少し考えるように首をかしげたが、どうやら思い出すことはできなかったようだ。
「他にも力を秘めているようですが、まだ使いこなせる段階まできていないということでしょう」
どちらにしろ、綾奈に雪女の力に対する恐れなどが無いというのは幸いであった。
しかも、すでにある程度は自分の意志でコントロールできるようだ。
「貴女が使った力、私たちが持っている力は、妖術または妖力といった名前で呼ばれています・・・」
つららによる講釈が始まった。今は使えなくても、他の力も徐々に使えるようになっていくだろう。
注意深く見守る必要はあるが、人間の世界で暮らしていく上で必要なことをしっかり覚えれば、
これまでどおり里の外で一緒に暮らしていくこともできるはずだ。
(がんばって、綾奈ちゃん)
日奈はそう願いながら、つららの話に聞き入る姪の姿を見つめるのであった。
芽衣「なかなかやるじゃない。これからが楽しみね」
日奈「そうなの。もしかすると私やお姉ちゃんより力が強いかもしれないわね」
来夢「なんだか、ますます早く会いたくなってきちゃいました☆」
【終】
←Sweet4 【前編】へ
←Sweet4 【中編】へ
Stories の目次 へ
「シェアード・ワールド・ノベルズ 妖魔夜行」「シェアード・ワールド・ノベルズ 百鬼夜翔」
は角川スニーカー文庫より発売中のシリーズです。