愛知県碧南市 平成14年に姿を消した「大浜水門」 不格好な姿が思い出に残る

思い出半ズボン

大浜の水門

堀川沿岸を守ってきた水門が姿を消す 同年代の新川水門は今も存在

堀川下流にあった大浜水門

<湊橋のすぐ下流にあった大浜の水門が消えた。平成14年(2002)秋の出来事。ロボットのような外観に建設当初は、古き良き大浜の景観を知る人の嘆きの対象だった。新しく堀川に造られた大浜水門はパステルカラーの出で立ち。かつてのエッフェル塔のように大浜の象徴となるのか> 大浜の堀川河口近くにあった水門が姿を消した。確かな記憶ではないが、平成14年(2002)10月には大部分の撤去作業が終了していたような気がする。 この大浜の水門が出来たのは、おそらく伊勢湾台風以後の昭和30年代後半。大浜八景のひとつに謳われた「湊橋夏月」の情景を台無しにするほどの無粋な水門の外観に、竣功当初はあまりに酷い景観に嘆く人も多かった。 私は物心ついた時から既に大浜の水門は景観の一部として認知しており、身近な存在だった。 水門の側面には太鼓橋があり、傾斜を利用して三輪車の競争をしたものである。 水門のあった場所からさらに下流へいった場所に「大浜水門」が新たに建設される。 その姿に私は愕然とした。現場に赴けば一目瞭然、あえて詳細に指摘するまでもないだろう。 1889年、フランスのパリに「エッフェル塔」が建造された際、パリの景観を乱すとして文化人や芸術家から大批判を浴びた。 ある文化人は、毎日エッフェル塔に通ったそうだ。「ここにいれば、あの醜い姿を見なくてもいいから」との理由で。 新しい大浜水門からの眺めは、実に素晴らしい。いつしかこの大浜水門が、パリのエッフェル塔のように、大浜にとって象徴的な建造物となる日が来るだろうか。

新川右岸にあった倉庫群

<昭和38年(1963)造の新川水門は今も現役。奇抜なデザインの新川橋と共に新川河口の景観を担っている。明治期に飛躍的な発展を遂げた新川の影に港の栄えあり。いつのまに姿を消したまだら瓦の倉庫群。新川交差点を横切る貨物列車に興奮して見ていたあの頃> 新川の河口には、大浜の堀川にあった水門とほぼ同じ外観を持つ水門が現在も現役で稼働している。 新川水門が出来たのは昭和38年(1963)5月。無骨なデザインの水門も、今では美しい新川景観の一部となっている。 だが、新川河口にも無くなってしまったものがある。まだらな瓦をみせる倉庫群が姿を消した。 真っ黒な壁に長大な屋根。新川河口の右岸は商業港として明治期以降発展し、本郷であった大浜村からの独立を勝ち取った原動力にもなった。 覚えているだろうか? 新川の五差路「新川」交差点で機関車が通り過ぎるのを待った日々を。 新川町駅が開業したのが大正3年(1914)2月5日の木曜日。その翌年である大正4年(1925)8月に新川港とを結ぶ「新川臨港線」が敷設される。 大浜にも同じように「大浜臨港線」が存在したが、昭和21年(1946)に廃止となっている。 新川臨港線も昭和30年(1950)に営業を廃止するが、その後も「構内測線」として昭和52年(1977)まで運行されていた。 新川の発展を支えた新川港も今は静かなもの。薄れていく賑わいのあと、旅情を誘う余韻のようなものが今の新川にはある。

ヘボト自画像ヘボトの「胡馬北風(こばほくふう)」

護岸工事以前にあった水門跡の赤煉瓦

「東山下水門」

宝永2年(1705)に新川が開削されて以来、ある事項を巡って大浜と油ヶ渕沿いの村々との対立の歴史があった。 水害を防ぐために上流への水門建設を主張する油か渕沿岸の村々。それでは新川沿岸の地盤が緩くなり、沿岸集落に被害がおこると建設計画を反古にする大浜。 時代を追うごとに新川にある水門の位置が移動しているのは、このような両者の対立があった故。 権現橋上流にある「東山下水門」の位置に明治16年(1883)5月27日(日曜)、水門が造られて対立は一応の決着をみる。 ちなみに享保年間(1716~1736)に一度、水門が存在していた場所であり、両者の争いが根深かったことを表す。 明治42年(1909)4月、それまで木造であった水門が煉瓦造りに架け替えられる。 当時の煉瓦が数年前まで残っていたが、護岸工事により取り除かれてしまった。現在、かつての水門跡として、水門に掲げられていた石盤が右岸コンクリートに埋め込まれている。 右書きで「油ヶ渕閘門」と横に「改築明治四十二年四月 修ぜん大正十二年六月」の文字。幅340センチ、奥行き46センチの大きさを持つ立派なもの。 切実と水害に悩まされてきた先人達の苦労を思い浮かべながら訪れてみたい。

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